ポッドキャストは下記プレイヤー(祖父の万年筆の話)より視聴可能です。
以前記事にした僕と祖父の万年筆をめぐる冒険。
母親から「祖父の万年筆をあなたが使う資格がない」という呪いのような言葉をかけられ、しまい込んでしまった祖父から譲り受けた万年筆だったが、親戚のある一言から立ち直り、祖父のためにも大切に使っていこうと決めたペリカンの万年筆。
その万年筆を壊してしまったのだ……仕事で立て込んでいた時にふと手から滑り落ち、次の瞬間床で砕けてしまったのだ…幸いにもニブ(ペン先)は無事で、ボディの部分だけが折れた形となった。
ただ、心のショックは大きく接着剤でつけたり、レジン接着剤を使ったりと試行錯誤をしてなんとか使い続けようとしたが、書いているうちにインクが漏れてしまい、このまま使い続けることができなくなってしまった。
ネットで情報を収集してみたところ、長年同軸内にインクが溜まっているとインクの成分にもよるが、内側から同軸が劣化することがあるらしい、特にこのペリカンのM800シリーズでは同軸が折れて修理に出すという事例が多いようである……事例が多いという情報で安心はしたが、いずれにしても落下させたのは自分自身であり、天国の祖父には率直に申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。
修理してくれるところを探す
ただ、くよくよしていても始まらない、なんとしてでもこの万年筆を修理しなくては!! そう思い色々と修理対応してくれそうなお店をあたり、情報収集する日々が続いた。
結果的には通勤途中にあった、高級文具を取り扱う書店で対応してくれることとなった、見積もりに一ヶ月、修理に一ヶ月と言われたときには気が遠くなりそうになったが、一刻も早く修理に出さなければという思いでお願いした。
店員「では、メーカーに預けてまたご連絡させていただきます」
僕 「あの…どうしても守ってもらいたいお願いがあるんです…キャップとニブだけはそのままにしていただきたいんです、祖父の万年筆だったもので、どうしてもそこだけは残してもらいたくて」
いつもの自分ならそのままお願いしますと頭を下げているところなのだがこのときは違った、修理に預けて、すべてのパーツが交換になってしまったらもう取り返しがつかないという焦りから、自然と溢れ出るように店員に説明していた。
「そうなんですね、では特記事項にしっかり書いておきましょう」
優しい店員でよかった、これでなんとか祖父の形跡を少しでも残せると安堵し控えを大切にしまった。
そして依頼から約2ヶ月後
無事修理は終わり、きれいになった同軸の万年筆が手元に戻ってきた。
書店で受け渡しの際、蘇った万年筆を手渡された時に、久々に祖父と手をつないだような感覚になってしまい、少し笑いながら涙ぐんでしまった、40過ぎたおっさんが店員を前にメソメソするなんて…気持ち悪さしかないが(笑)許してくれ。
約束通り、ニブとキャップは無事もとのまま帰ってきたのだが、もっと驚いたのは尾軸ももとのパーツを残してくれていたことだ。
上が故障して交換対象になったパーツで、それ以外はすべて元のパーツを生かしてくれたのだ、本当にありがたい話である。
これで無事に祖父の万年筆を使い続けることができるようになったので、話はここで終わりそうな毛派がするのだが…
実はずっと頭の中で思い続けていたことがある。
祖父とお揃いの、でも少し違う僕の万年筆
祖父が使っていた万年筆を孫が大切に使い継承していく…いずれ自分の子供や孫、その後にもずっと万年筆が受け継がれていくというのは、なんだかとてもステキなことだなと思った。
世代が変わっても、その人が生きていた証を感じることができて、会ったこともないし、会うこともできない遠い祖先が何者だったかを忘れずに想うことができる。
できれば…僕もそんな人間として人生を送っていきたい、自分が生きていた証になる万年筆というものが欲しいと思ってしまった。
そして出会ってしまった一本の万年筆「ペリカン スーベレーン M800 デモンストレーター」だ。
ペリカンが2009年特別生産品で販売し、あっという間に完売となってしまった幻の万年筆である。
透明な胴軸に各部位の説明が文字で刻印され、機構の仕組みが分かるようになっている、元は店頭や営業がコレを持ち歩き、吸入機構を客に説明するためにあったモデルということだ。 日本では300本ほどしか入荷されなかったという話もある。
このM800というモデルは、まさに祖父の万年筆とまったく同じ型番であり、それが透明ボディで中の構造が見え、各部位のパーツ名が記載された希少なモデルということである。
なんとかして、この万年筆を手に入れたいと願い…ネットで情報収集しまくる…あまりの欲しさ故に怪しい詐欺サイトにまで足を踏み入れそうになってしまったくらいだ…まさに気が狂うほどの魅力があるデモンストレーターだ。
そしてこの度、奇跡的に僕の手に「ペリカン スーベレーン M800 デモンストレーター」がやってきたのだ!!
なんて美しいのだろう…ブルーブラックのインクが入っているのが見え、ユラユラと眺めているだけでも幸せになってしまう。
祖父の万年筆と僕の万年筆を並べてみた。
同じ形なのに、威厳を感じる祖父の万年筆、先進的な楽しさを与えてくれる僕の万年筆。
不思議とこの二本の万年筆の関係性は自分なりにしっくり来る。
40過ぎて、もしかすると人生も折り返し地点に差し掛かったのかもしれない、この二本の万年筆をお守りにして、残りの人生を歩んでいきたいと大げさなようで割と本気で想っている。
「見てよジージ。お揃いだぜ?透明で俺のほうがカッコいいけどな(笑)」
天国にいる祖父にそう伝えたい。
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